第6回表彰 授賞式の模様:三枝成彰さんの受賞挨拶
私は仕事の上でプロデュ−サ−という概念を持っていないので、プロデュースの栄誉ある賞を頂いて、実は驚いています。それに、本を読ませて頂くと分かるのですが、渡辺晋さんは、私の仕事とは比べものにならないほどのことを実行されたわけですから、その方の名前のついたプロデューサー賞を頂くなんて思ってもいないわけです。
僕はプロデュースをするという覚悟ではなく、なんとなく始めて、それが長く続いているだけですから、何もしていないなという気持ちすらあります。困ったなこんな賞を頂いてしまってと思っているくらいで、今日も、どうやって挨拶するかと、2週間くらい前から考えたのですけれども…、うまい言葉が見つかりませんでした。
いくつかの受賞理由になった事柄についてちょっとお話ししてみますので、その辺を汲み取ってください。
まず六本木男声合唱団についてですが、1999年にエイズ・チャリティーコンサートというものがありまして、それが5年間続き、男性全員で合唱でもやってみようということになりました。無事に終わったとき、ケント・ギルバートさんから「気持ちよかったから、月に1回くらい集まって歌おうよ」という提案がありました。「そうだな、そうしましょう」ということになって、やり始めるとだんだん欲が出てきて、「もうちょっと上手くなろうよ」ということになり、「では週一の練習にしよう」となりました。
なぜ六本木という名がついているかといいますと、練習のスタートが六本木のバーからだったからです。でも、盛況になると、その六本木のバーは酸素欠乏状態になりましたし、年配者が多いために「照明が暗くて譜面がよく見えない」というクレームがついて、場所はあちらこちらに移りまして、規模もどんどん大きくなったというわけなんです。
海外活動もずいぶんあります。でも最初のウィーン、グラーツそしてベルリンでのコンサートのときは、正直なところ冥土の土産にしようというのがテーマでして、「棺桶に入れる写真とビデオ」というタイトルでした。その後、棺桶に入れるものが増えちゃいまして、キューバ、ハワイ、イタリア、フランス、モナコ、ブラジル、パリ、ボルドーと行います。今年は、イタリアのミラノとバチカンです。
「バチカンで!」と驚かれるのですが、実は合唱団の団員に近衛忠輝さんがいらっしゃいます。近衛さんは世界赤十字の総裁でして、「4年に一度の大総会があるから、その地でやってくれないか」と要請されたというわけです。アッ、念のために申し上げますが、出てくれないかと言われても、経費は自己負担です。招待されたといっても、自分でお金を払っていくんです。そして、「どこでやればいいんですか?」と伺うと、決まっていないという。結局、チェスキーナ・洋子さんという、イタリアの方と結婚して大変な財産を持っている方にホールをとって頂きました。オーケストラはまだ決まっていないんですけど、共演させていただくことになりました。
今団員は225名おります。平均年齢は56歳。この間まで61歳でしたが、だんだん若い人が入ってくれるようになりました。練習の回数は去年が95回。なぜそんなにやるかといいますと、熱心というよりも下手だからです。何しろ譜面が読めない方が95%ぐらいですから丸憶えするわけです。ですから、たくさんの練習が必要なのです。
この間の東京マラソンのときもショーアップのために呼んでいただいたのですが、以前に歌ったときはその模様がテレビに映らなかったのです。そのことが参加団員はとても悲しかったというので、まあ僕はどうでもいいのですが、フジテレビの日枝久会長に、「3秒ほどでいいからどうか中継の中で映して頂きたい」とお願いしました。その甲斐あってか、今年はなんと10秒以上も出たそうで、本当にありがたいことでございました。それにNHKのニュースにも映ったとか。皆様のお陰です。
次に、ジャパン・ヴィルトゥオーゾ・シンフォニー・オーケストラについてですが、今日も会場にいらしている指揮者の大友直人さんとある仕事をしている時に、「セレクトされたメンバ−でやると日本の演奏もこんなに凄いんだね、こんな凄い音がするんだね、これを一般で聞きたいよね」と話した所から始まりました。大友さんと始めたこの企画はすでに70回になりました。
そしてベートーヴェンの交響曲を1番から9番まで続けて演奏するのは今年で6回目。私は基本的に美味しいところだけを演奏するのはいけないと思っております。コンサートでは、美味しいといわれる一楽章だけとかいうのではなく、全楽章を我慢して聞くことに意味があると思っています。摘まないと言うことを基本にしています。
また、1000円という廉価で中学生や高校生のためにコンサートを行っている「初めてのクラシック」も今年で5回目になるんです。今年は、ドヴォルザークをやる予定です。ドヴォルザークの新世界・チェロコンチェル・スラヴ舞曲という風にしております。
実はこうした活動は全て、スポンサー無くしては出来ないのです。これらを実行するたびに、スポンサーの方たちにご迷惑をお掛けしているわけです。いろいろなお願いが重なるので、そうした会社の偉い方は、「三枝さんに会いたくない」といわれる。「会うと応援する金額の0が1つ増えるもんな」という声が聞こえてくるぐらい、私は嫌われております。でも、スポンサー無くして出来ないんです。
私の力だけで出来るわけは無いのですから、先ほども申したように、私はプロデュースをしている気持ちは毛頭無いんです。それなのに、渡辺晋賞をこのように頂いちゃったというのは、人に恵まれ、チャンスに恵まれたラッキーな人間なんだなと思い、ご協力いただいている全ての皆様に心から感謝しております。どうもありがとうございます。